当面の間の即売会自粛のお知らせ

 連日、新型コロナウイルスの感染拡大が話題に上っています。もっと
しっかりと水際対策ができていれば、と悔しい思いはありますが、入って
きたものは仕方ありません。少しでも感染を抑え、死亡リスクを減らして
いくことを考えねばなりません。

 さて、既にお伝えしていた通り、3月の谷町月いち古書即売会と4月開催
予定だったツイン古本フェアを当店独自の判断で参加を見合わせており、
また夏に開催予定の当店主催イベントも中止を決定しましたが、今後も
引き続き自粛を継続していくことを決断し、本日、お知らせいたします。

 ツイン古本フェアは4月の日程が7月に延期になりました。しかし、現状を
見れば果たしてその頃に事態が収束しているか、はなはだ疑問に感じます。
今のところは参加予定でいますが、正直なところ、開催は厳しいのじゃないか
と思っています。もし、主催団体がイベント開催を決断しても、当店の判断で
危険と考えれば、不参加も辞さない覚悟でいます。

 本来、こういったイベント開催に支障となる大きな問題が発生した場合には、
参加店が一丸となって取り組むのが好ましいことだとは思います。とはいえ、
各参加店にはそれぞれの事情があり、また主催団体にもそれぞれの事情が
あって、なかなか一致団結とはいかないのが現状です。

 結局のところ、こういった問題の根本は

 金をとるか、生命をとるか

 ……といった問題に帰着します。自粛をしても政府に補償してもらえる
わけじゃないし、生活もある。そう考えると、無理を押して開催決行という
判断になりがちです。また、会場によってはイベントを自粛したくても、
こちら側から言い出せばキャンセル料を請求されるので仕方がないって
話も聞きます。

 様々な経済的損失を考えれば、リスクを承知で開催するって判断になる
のも理解はできます。特に古本屋は零細企業が多いですし、短期間に
まとまった金額を稼げる催事はありがたいものです。

 しかし一方で、古本屋も社会の一員です。生活が苦しいからとか、金に
困っているからという自分勝手な都合で社会に迷惑をかけていいはずも
ありません。古本屋自身が感染して他の人にウイルスをバラまくということが
ないだけでなく、催事に訪れる人同士が感染の被害者にも加害者にもならない
よう、適切な措置を講じるべきです。

 でも、どれだけ換気や消毒を心がけても、決して感染リスクはゼロには
なりません。古本の即売会場で、クラスターと呼ばれる感染集団が発生する
ことも、決してあり得ない話ではないのです。
 ただ、これは古本に限らず、どんな職種、どんなイベントでもウイルス感染の
可能性はなくならないものです。でも、そういったら通常の社会生活は営め
ないので、「ある程度」のところで、どうしても妥協はせざるを得ません。

 その「妥協」の基準となるのが、感染リスクと感染被害をどう評価するか
って点だと思います。換気や消毒などの何らかの感染症対策を講じていれば、
感染リスクは小さいって判断になりがちですし、「死亡率は低い」とか「若者は
重症化しない」などという報道を聞くと、感染被害を小さく捉えがちです。

 感染リスクも小さく、被害もそれほどでもないなら、やはり経済活動を大切に
したいって思いが出てくるものでしょう。

 しかし、その判断は本当に正しいものでしょうか?

 たとえ、即売会場の換気や消毒を徹底しても、お客さんは自宅からどこでもドアを
使ってひょいっとやってくるわけではありません。バスや電車などの公共交通機関を
使ってやってくるわけです。そこには「三密」と呼ばれる密閉、密集、密接の状態が
あるわけです。その部分の感染リスクは古本屋の努力ではどうしようもありません。

 でも、そもそも古本屋が催事を開かなければ、その人たちが町へ出かけることも
ないわけです。古本屋がバスや電車を消毒することはできませんが、催事を取り
やめることでお客さんの外出による感染リスクを減らすことはできるというわけです。

 もう一つ。感染被害の過小評価についてもよく考えるべきです。

 当初、重症化するのは基礎疾患のある人や、高齢者だという報道が盛んに
なされていました。ところが、どっこい。ここに来て、若い方や、基礎疾患のない方
でも重症化する例が報告されています。

 確かに、若い健康な人は重症化するリスクが低いのかもしれません。しかし確率は
低くても、感染者数が増えれば、全くの健康体の人でも一定数以上重症化し、さらには
運悪く亡くなる方が出てくるのも当然の話です。どれだけ設定の悪いスロットマシーンでも、
ずっと回し続けたらいつかは大当たりするってのと同じ理屈です。

 「死亡率が低い」というのは、いまだに報道されている嘘です。

 厚生労働省の統計によれば、2020年3月31日12時時点での国内感染者数は
1953名、死亡者56名、回復者数424名となっています(クルーズ船感染者含まない)。
さて、この数字をもとに計算しましょう。1953人が感染して、56人が亡くなっている
のだから、死亡率は

56÷1953=0.028……

 ……ってことで、死亡率3%未満てのが報道の理屈です。

 でも、これはリスク評価をする上では明らかに誤った計算方法です。今現在感染
している人は、無事に回復し退院できるか、あるいは悪化し亡くなるか不確定
なのですから、確定数字をもとに計算すべきです。すなわち、死亡者数と回復者数
との比で死亡率を計算すべきです。

 56(死亡数)÷480(死亡数+回復者数)=0.1166……

 つまり、

 致死率約11.7%

 というのが、現段階での数字です。パチンコをする人だったら想像してください。
10回転するごとに1回大当たりするよりも高い確率なんですよ。

 ちなみに、この数字は今の日本の数字で、世界全体の統計をもとに上の方法で
計算すると致死率は約16.8%です。イタリアやアメリカなど医療崩壊が叫ばれている
国もありますから、そうなればこの数字はもっと上がるかもしれません。
 日本でも東京、大阪では感染者数が増えていますから、医療崩壊に至れば、今月
末頃にはさらに致死率が高くなる可能性はあると思っています。

 こう考えれば、「たぶん大丈夫」とか「万一、感染被害が出ても大したことないだろう」
って楽観視するのは危険なことと思います。

 以上のような考えで、当店では今の状況ではあえて感染拡大を招きかねない
催事は執り行うべきではないと考え、当面の自粛を決定しました。自粛期間は未定。
とりあえず夏頃までは、おとなしくしていようと思います。

 もちろん、夏になっても一向に事態が好転していなければ引き続き自粛モード。
感染者数がゼロにならないまでも、増加数に一定の歯止めがかかっているよう
でしたら、参加を検討しますが、極力、慎重に判断します。特に、大阪府下の感染者
数が収まらないまでは、参加すべきではないと思っています。ご理解ください。

 さて、ここまで長々と書いてきましたが、最後にもう一つ。

 ウイルス侵入を水際で止められなかったことは、不十分な検疫体制しか用意でき
なかった政府の責任です。しかし、ここまで感染を拡大させたのは、国民一人一人の
責任でもあります。ちょっと楽観視しすぎじゃないですか? 「自分は大丈夫?」 ……
うん、でも周りの人が大丈夫じゃない場合だってあるんですよ。

 古本屋がこんな事を言うのはおかしいかも知れません。でも、あえて言います。

 命懸けで本を買う必要ありますか?

 当店が参加自粛していた谷町月いち古書即売会。参加自粛を申し出た時には、
まさかここまで被害が拡大するとは思っていませんでした。他のイベントが続々
中止や延期になる中、月いちイベントは当初の予定通りの日程で開催されました。

 換気やアルコール消毒など感染症対策はある程度行っているとはいえ、不要不急の
外出を控えてくれという知事の要請もあったし、お客さんは少なかっただろうなと
思ったら、結構な賑わいだったそうです。

 ある参加店の方は、

「どこもかしこも自粛、自粛で、行くとこないから
客が大勢来たわ。コロナバブルや!」

 ってな不謹慎なことも言っていました。不謹慎な事を言う店も悪いが、客も
どうかしてるよ。

 本が好きなのはわかる。催事が楽しいのもわかる。でも、それは自分が病気に
なっても後悔はないぐらい楽しいことですか? あるいは自分の周りの人に
感染させるリスクを負ってまでも、追求しなければいけない楽しみですか?

 もう一度言います。

 命懸けで本を買う必要ありますか?

 本を愛するお客さんは、知的な人であってほしい。人生において、何が大切で
何を優先すべきか。それを冷静に判断できる人であってほしい。

 それが今回のコロナ騒動の中で、当店の店主が感じたささやかな願いです。



ウイルスの根絶を願って。


2020年4月1日 ロビン・ブックセンター 林晃洋

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